独特の世界観と洗練された画力であらゆる人を魅了する『鉄コン筋クリート』

概要

漫画「鉄コン筋クリート」は松本大洋による漫画。
1993年から1994年にかけて、小学館のビッグコミックスピリッツに連載された。単行本は、全3巻。小学館からワイド版と文庫版が出ている。
また、2006年に、同名でアニメーション映画化されている(マイケル・アリアス監督。日本映画)。2018年には舞台化もされた。

登場人物紹介

クロ

シロと共に廃車に寝泊まりしているストリートチルドレン。
右目に傷痕がある。盗みやカツアゲなどをして生活している。宝町を自分の町だと思い、町で幅を利かせようとする者には、容赦なく制裁を加える。ケンカに強く、人並外れた身体能力で街中を飛ぶように移動でき、ネコ」と呼ばれ恐れられている。
シロの身の回りの世話は、ほとんどクロがしている。

シロ

クロと共に廃車に寝泊まりしているストリートチルドレン。
右目に泣き黒子がある。クロと同様、飛ぶことができる。犯罪やケンカをする時には、クロが主導で行うことが多く、シロは補助的な役割を担う。クロより言動が幼く、弟的な存在。ワガママですぐ泣くが、純真で人懐こい性格で、ホームレスの源六やチンピラのチョコラに可愛がられている。身の回りのことは、ほとんどクロにしてもらっている。

鈴木

「大精神会」に所属するヤクザ。毎週必ず占いの本を買うなど、ヤクザらしくないところがあるが、「ネズミ」と呼ばれ、恐れられている。一度は宝町を離れたが、戻ってきた。
町を離れるきっかけを作った刑事の藤村とは犬猿の仲。宝町に愛着を持ち、「子供の城」建設計画に反発する。

藤村

町の警察署のベテラン刑事。通称「ネズミ」のヤクザの鈴木とは昔から犬猿の仲で、執拗に追い回し、彼が宝町を出ていくきっかけを作った。
左耳に傷がある。学生時代に、柔道の全国大会で三位に入った。クロとシロを厄介だと思う反面、心配してもいる。

あらすじ

どこか昭和の繁華街のような混沌とした雰囲気の町、宝町。
そこではヤクザやストリートギャングが、幅を利かせていた。廃車の中で寝起きしているストリートチルドレンのクロとシロは、カツアゲや盗みなどをしながら暮らしていた。
驚異的な身体能力で、街中を飛び回ることができる彼らは「ネコ」と呼ばれ、人々から恐れられていた。
クロとシロ、ストリートギャング、昔気質のヤクザ、地元警察署の刑事が小競り合いを繰り返しながらも奇妙な均衡を保っていた宝町。シロとクロは、それなりに自由を謳歌していた。
しかし、宝町に「子供の城」という一大レジャー施設を建設する計画が持ち上がり 、均衡が崩れ始める…。開発によって、様変わりしていく町に違和感を覚えるクロとシロ。「子供の城」の開発業者「蛇」は、開発の邪魔になるクロとシロを排除しようと3人組の殺し屋を送り込む。クロはそのうち一人を仕留めたが、シロは瀕死の重傷を負う。シロを守れなかったことで自分を責めたクロは、一命を取り留めたシロを安全のために警察に引き渡す。
クロに捨てられたと思い込み、次第に精神のバランスを崩していくシロ。一方、クロもシロと離れたことで、精神のバランスを崩しつつあった。
ある日、クロは殺し屋に追い詰められてしまう。いよいよクロが殺されようとした時、牛の頭蓋骨を被った「イタチ」が突然現れて殺し屋を殺害。「イタチ」に仲間になれと言われたクロだったが…。
「イタチ」の正体は?シロとクロは再び一緒になれるのか?

見どころ

独特の絵柄と世界観で、今や世界中にファンを持つ松本大洋の代表作の一つ。
一コマ一コマの絵が芸術的で、コマ割りも、まるで映画を観るような感じ。色使いも独特で美しい。
少年が主人公、どこか懐かしい混沌とした町が舞台である事が多い松本作品。本作でもそれらが堪能できる。ヤクザやストリートギャングが幅を利かせる暴力に溢れた危険な宝町。そこで犯罪を繰り返しながら、兄弟のように暮らしているクロとシロ。読み進むにつれて、町にも、登場人物たちにも、違う側面があることが分かってくる。
宝町はギリギリのバランス保っていて、より荒々しい世界に堕ちずに済んでいる。一見、強いクロが弱いシロをいつも守ってやっているように見えるが、実は互いに補完関係にある。そして、それらのバランスが崩れた時。物語は更に深いところへ…。

感想

雑誌連載時に読んだ時は、登場人物たちの顔が「マンガ風」ではなく、いかにもいそうな「日本人顔」だったのが、衝撃だった。
そして、アクションシーンが、映画を観るようで、素晴らしい!なんだか、スローモーションで見るようで、独特の浮遊感がある。色使いも独特で、単行本の表紙を見て「ジャケ買い」したくなる作家さんの一人。
架空の街、宝町の混沌としているけれどもどこか親密な感じ、強いけれど暴力的なクロと、弱いけれど純真なシロ、外部からの新参者への反発、危機に際して現れる、心の闇や影としての分身…など、まるで描かれた世界全体が、一人の少年の心の世界のよう。
自分の心の中の暗闇と折り合いをつけ、守らなければと思ってはいるが、どこか煩わしくも思っていたかもしれない弱さ・無垢を再び受け入れ、共に生きていく…漫画として面白いが、少年の成長物語としても、秀逸。