白い紙

これは、私が小学生の時に体験した話です。

学校が早く終わったので、久々に母親が運転する車で外食へ出かけることになりました。
なかなか母親と2人きりで外食に行く事がなかったので、本当に嬉しく、学校のことや友達のことを話しながら移動します。

馴染みのクリーニング店の前を通り過ぎると踏切があるのですが、遮断機がカンカンカンとけたたましい音と共に降りてきました。
私達の前にいた車が停車したので、母も車を停車させます。
何気なく正面を見ると、向こうに立っている人の表情までリアルに見えました。

左の方から電車の走る音が近づいているようで、私は線路を左から右へゆっくりと見渡しました。
すると前にいる車の横から見える向こう側に、色白でかなりほっそりした体型の女性が立っていたのです。

その方は黒いロングの髪に、手には小さな白いハンドバッグを持っていて、真っ白な膝下くらいまでのワンピースを着ていました。
黒と白のコントラストが目立ち、思わず目が止まります。

「もうそろそろ電車がくるな」
と思った時でした。
どこからか白い紙?のような物が、空高く舞い上がったように見えました。
「何だろう…」
私が舞い上がるまっ白な紙を眺めていると
「キャ―――ッ!」
という大きな叫び声が聞こえてきました。

何事かと思い目を向けると、先ほど見ていた白いワンピースの女性が線路の中に入っています。
もう間もなく電車が通り過ぎるタイミングで踏切に入って行く女性は、勢いよく走って来た電車へもろにぶつかり、私はその瞬間を見てしまいました。

母親も私も何が起きたのか分からず、気付くまで車の中でボーッと座っていました。
気がつけば前の車が勢いよくUターンしていなくなり、線路の近くに立っていた人達も散り散りになっていく状態です。
ハンドルを握る母親と助手席に呆然と座る私だけが、線路の前に取り残されてしまいました。

そのうち駅の方から人が3人走ってくるのが見えました。
母親が車の窓を開けると、そのうちの1人のおじさんがゼーゼー息を切らせながらこちらに向かってきて
「バラバラだよ…」
と言うではありませんか。
それを聞いた時、私達親子は思わず家へと逃げ帰ったのでした。

あっという間の出来事だったので、その瞬間はあまりはっきりとは覚えていないのですが、一つだけ記憶にあるのが…
電車にぶつかる直前、白いワンピースの女性は笑っているように見えました。
私の推測ではありますが、自殺するほど思い悩んでいた方からしたら、その苦しみから解放されると考えて思わず笑みが出たのかもしれません。

それにしても、私が直前に見たあの白い紙は何だったのでしょうか。
母は「そんな紙なんか見ていない」と言います。
白い紙は女性の死と何か関連があるのではないかと、つい考えてしまいます。