嫁の飯

おぞましい出来事

これはまだ俺が結婚していた時の話。

俺が当時22歳、元嫁が20歳の時に結婚した。

俺は結婚して落ち着くにはまだ早すぎて、ふとした気のゆるみで浮気をしてしまった。

しかも元嫁の友人に手を出してしまったのである。

浮気はバレてしまい、ひどく揉めることとなってしまった。

当然元嫁と友人は絶交、俺と友人は二度と近づかないという誓約書を書いた。

俺は本当に反省し、軽はずみな行動が大惨事を引き起こすことを学んだ。

俺に裏切られ、友人を失い、ひどく落ち込んだだろう嫁は、それでも俺を許してくれた。

それどころか料理の勉強をし、俺が帰ってきたくなるような家にするとまで言ってくれたのである。

それからどんどんに料理が上達し、俺が帰宅するとすぐに食べれるよう毎日準備してくれるようになった。

おれは本当に毎日家に帰るのが楽しみとなった。

俺の浮気が発覚してから1年ほど経ったある日、俺は裏切ったことの反省とそれでも俺を支えてくれる嫁への感謝をこめて、サプライズプレゼントを渡す事を決めた。

その日は半休を取り、会社を早く切り上げ、プレゼントを用意し嫁が買い物に出かけている間に家に忍び込み、台所の隅っこのカーテンで仕切られているスペースに身を潜めた。

買い物から帰ってきた嫁が料理を始めたところに驚かせようと身を乗り出したその時、ブツブツと嫁の独り言が聞こえた。

「ホラ、いい子だからおとなしくしていなさいねぇ…」

カーテンの隙間から覗くと嫁は笑っている。

「あの人に食べられるんだから、美味しくなるのよぉ…」

魚でもさばくのか?

いや、そんな大きくない…

と目を凝らし、それを認識した瞬間、頭が真っ白になった。

そして同時に強力な吐き気が襲ってきた。

嫁は得体のしれない虫をみじん切りにしていた…

嫁は俺を許していなかった。

1年間コツコツとこいつ(虫)を俺に食わせていたのだ。

俺は泣きながら吐いた。

そして嫁を睨みつけた。しかし嫁は包丁を持って笑っている。

俺「な、なんだよ、なにやってんだよそれ…」

嫁「あら、もう帰ってきてたの?料理まだだからもう少し待っててね」

俺「ふざけ…」

嫁「てゆーか、なに覗き見してんだよ」

顔はまだ笑っているが、目は見開いている。

俺は嫁を突き飛ばし、必死に逃げた。

後ろから発狂した嫁の声が聞こえたが、なりふり構わず逃げた。

その後、友人の家にお世話になりながら離婚が成立した。

財産分与などどうでもよく、二度と近寄らないことを条件として離婚。

その後分かったことだが、引っ越し業者の話によると、押し入れに何匹も虫がわいていたらしい。

恐らくそこで虫を飼っていたのだろう。

もちろん繁殖させていた虫かごなどは嫁が処分したのだろうが…

それから誰かの手料理は食べれなくなった。

毎日外食かコンビニで済ませている。

そして俺の住むアパートの部屋の前には定期的に切り刻まれた虫が落ちている。