友人の異変

私は中学生の頃にソフトテニス部へ在籍していたのですが、そこでは毎年夏休みになると合宿を開催していました。

参加は強制力があるものではなく、どちらかというと部員間の親睦を深めるようなものでした。
ですから学年の違う先輩や後輩とも仲良くなれるチャンスが多くあり、半ば修学旅行のような感覚で私も3年間参加しました。

これは忘れもしない、私が2年生の合宿で起きた事です。

その年は、期間中に1日だけ自由行動を許された日がありました。
当然ながら門限と節度はしっかり守る前提でしたが、同学年の仲間たちとお土産を買いに行ったりしたと記憶しています。
合宿場所が地元から少し離れた土地だったため、どこに行っても目新しさがあり楽しかったです。

そして夜。私たちはそれぞれに自由行動でどこへ行ったかという話をしていました。

ある先輩は川遊びをしたと言いますし、ある後輩は遊園地に行ったと言います。
しかしそんな中学生らしい行き先をみんなが言う中、私の友人だけは少し変わった場所へと赴いていました。

「俺は霊園に行ったよ。なんか分からんけど気が付いたら行ってた。」

こう友人が言うと、一瞬ですが場の空気が微妙になったのを覚えています。
それも当然です。何故に霊園なのか?
行った理由も本人が分かっていないと言うので、非常に不気味です。
しかしそれ以上に、この言葉を発した友人の様子が妙だったのです。
目は虚ろで、あまりしっかりとしていません。

「こいつ、こんなキャラだったっけ?」

そう尋ねてくる先輩に対して、私は首をひねる事しかできませんでした。

異変は、その後皆が寝静まってから起きました。
時間はもう日を跨ぎ、頻繁に見回っていた顧問の先生もいつしか来なくなっていました。
恐らくは、先生も眠ってしまっていたのでしょう。
ところが私は友人が霊園へ行ったという話がどうしても頭から離れず、なかなか眠れずにいました。

すると突然、その友人がスッと起き上がり、ふらっと部屋を出て行ったのです。
トイレかとも思いましたが、15分ほど経っても戻りません。
心配になった私は、怖さを抱きながら友人を探すことにしました。

かなりの時間、合宿所を探し回ったような気がします。ようやく見つけた友人は、最上階にあったテラスにいました。

友人はテラスにある手摺りから身を乗り出し、前に真っ直ぐと手を伸ばしていました。
何をしているのか分かりませんでしたが、まるで誰かに手を引っ張られているような、または誰かを手招きしているような姿に見えました。
いずれにせよ、普通ではない事だけは確かです。

まさかとは思うけど飛び降りたりしないよな…と心配しながらも、友人に近づき声をかけました。
するとその友人は振り向き

「あれ?○○じゃん、どうしたの?」

といつも通りの調子で返事をしてくれました。

私は真夜中に何故こんな所へ来たのか、友人に訊ねました。
ですが友人も分からないようで、私に声をかけられるまでの記憶がないと言います。
寝ぼけていたということにはなりましたが、何かスッキリしないモヤモヤした印象が強く残りました。

その後は友人に目立った変化も起こらず、合宿は無事に終了しました。
ですが自宅に帰ってから父親に合宿所の場所を話したとき、私の身は再び恐怖に包まれました。

「△△町ってあれだろ?有名な心霊スポットの霊園が近くにあるところ。あんな場所でよく合宿やったな。」

父が話す霊園とは、まさに友人が自由行動の時間で行った所でした。
その霊園は、かつて自殺の名所と呼ばれていた森を切り開いて得た土地に造られたものだそうです。
あまり表には出ていないですが、毎年その霊園で幽霊を見たという人が出るようで、今でも知る人ぞ知る心霊スポットになっています。

友人が霊園へ向かったり、深夜にテラスで謎の行動をとっていた出来事は、ひょっとしたら何かが憑依していたのかもと今では思います。
思い出すと怖くなるので、できれば永久に忘れ去りたい経験です。
そして私もいつかあの霊園へ引き寄せられるのではないか…という不安が、頭の隅から離れません。