第1話ネタバレ
時は南北朝時代。
これは逃げることで英雄となり、生きることで伝説となった少年がの物語である。
場面は1333年鎌倉。
盛大な声援が渦巻く中、鎌倉幕府の英雄・足利高氏がご後醍醐天皇の討伐派を鎮めるべく京への出陣の時を迎えていた。
高氏を囲む群衆の中、彼は一人の少年に声をかける。
その少年の名は「北条時行」。
この物語の主人公である。
時行は鎌倉幕府の総帥・北条高時の息子であり、高氏の未来の主君となる人物である。
時行は高氏の出陣を笑顔で送り出す。
しかしなぜ幕府の後継ぎとなる少年が群衆の中に紛れていたかというと、弓の稽古をさぼりたいがためで、結局、教師に見つかってしまう。
しかし時行には特殊な能力があった。
「逃げる」ということに非凡な才能を持ち、今回もいとも簡単に武芸指南役ふたりの手をすり抜け逃げ去ってしまうのであった。
そんな時行を見て、総帥である高時と同様、お飾りの王になるのではないかと皆の心配は尽きない。
武士のとりえもなく、逃げ腰の時行に期待する者など皆無であった。
そんな時行は大好きな鎌倉で平和に暮らす人々の笑顔をみながら、地位も名誉も持たず、ただこの街で生きていければそれだけでよい、などと考えながら木の枝の上で寝転がりくつろいでいた。
その時、巫女のような格好をした少女が時行に声をかける。
その少女は時行には怪物の欠片が眠っていると言う。
意味がわからず、きょとんとする時行の背後から、突如として一人の人物が大声で声をかける。
彼の名は諏訪頼重。
信濃国の神官だという。
怪しい笑みに謎の後光が差したその人物は未来が見えるという。
少女の名は雫。彼らは親子関係にある。
明らかに怪しい目で頼重を見る時行。
そんな時行に頼重は未来を見て差し上げると目を刮目。
しかしその未来は曖昧にもほどがある内容で、頼重自身も断片しかわからないと白状する。
しかし明確に見えた未来もある。
それは二年後の10歳の頃、時行は天を揺るがす英雄となるというのだ。
しかし次の瞬間、時行は怪しさのあまり、凄まじい速さでその場を離れる。
日も暮れようとする時、時行と兄の邦時は毬で遊んでいた。
兄がいるにも関わらず、時行が世継ぎとなる理由は、兄は側室の子で時行は正室の子であるからだ。
兄は時行の逃げる能力を高く評価しており、時行は何かひとつ条件がそろえば英雄になれると義重と同様の英雄という言葉を発する。
そんな平和な日々は長く続かなかった。
一か月後、兄・邦時は斬首され、父・高時は自害。
その他にも時行の周りの者は次々と命を落としていった。
その不幸が舞い込んだ原因は、足利高氏の謀反であった。
実は高氏は後醍醐天皇と内通しており、計画された幕府討伐は実に迅速であった。
幕府討伐に要した時間はわずか24日。
鎌倉幕府滅亡したのだ。
燃え盛る城で父と多くの亡骸の前に呆然と立ち尽くす時行。
そこに現れた頼重と雫。
頼重は生前の父・高時の命を受けて、時行を信濃諏訪に逃がしにきたのだ。
城を出た時行の目に飛び込んできた風景はまさに地獄絵図。
街を見渡せる場所までたどり着いた時行は、皆のように武士らしく死にたいと頼重に訴える。
その言葉を聞いて、躊躇なく敵兵があふれる崖の底へ突き落とす頼重。
頼重は確信していたのだ。
時行は得意の逃げでこの状況を回避すると。
その思惑通り、絶望の底に触れ、時行の逃げ上手が開花。
時行は見事な身のこなしで敵兵をすり抜け、いとも簡単に崖の上に戻ってみせた。
そんな時行に頼重は言う。
時行は生存本能の怪物。
かたや高氏は殺すことで英雄となった。
二人は対局の運命の英雄なのだと。
時行は決意する。
天下を取り返す鬼後っこという名の復讐劇を。
こうして時行の激動の生涯が始まるのであった。