青年期の男の子をピックアップ「アフロ田中」

概要

漫画『アフロ田中』は、のりつけ雅春氏によって描かれている、アフロのように見える天然パーマの田中の人生を描く漫画。2002年から2019年の17年間にわたって『ビッグコミックスピリッツ』(小学館)で連載されており、ジャンルはギャグ・青年漫画である。連載当初は『高校アフロ田中』だっが、それから『中退』『上京』『さすらい』『幸せ』『結婚』と主人公田中広の人生に沿って漫画タイトルが変わっている。

登場人物紹介

田中 広(たなか ひろし)

立華高校通う高校生で後に中退する。巨大なアフロがトレードマークだが、それはアフロではなく天然パーマ。高校のボクシング部に入部し、そこで後の連載にも登場する、井上、岡本、村田、大沢と出会う。女性にモテることばかり考え、様々な工夫をこらすが全くモテない。高校中退後に始めたバイトも長続きしない。自分の欲望を抑えることなく突き進む様子は、逆に爽快さを感じさせる。一方、性格は捨て猫を飼うなど、優しい一面も見られ、普段の行動が非常識な分、常識的な一面が際立つ。

井上 真也(いのうえ しんや)

田中の一個上の学年で、友人達の中では一番太っており、田中とはボクシング部で出会う。在学中のバイト先で後に結婚する二階堂麗子(にかいどう れいこ)通称「ロボ」と出会う。友人の中では唯一大学まで卒業した。ロボとは一度別れるが、後に結婚し子供をもうけている。定職に就き、結婚をしている点で他の友人とは違った人生を歩んでいる。

岡本 一(おかもと はじめ)

田中の同級生でボクシング部員。友人達の中では一番の常識人で他に比べるとモテる。そのため童貞卒業はボクシング部員の中で一番早かったが、田中と出会ってモテなくなった。何とか付き合えたとしても、浮気されてしまうという不運さも持ち合わせている。高校卒業後は郵便局員として就職した。常識人ではあるが性欲が激しく、それが原因で失敗することも多い。酒癖も悪い。

村田 大介(むらた だいすけ)

田中の一個上の学年で、ボクシング部のキャプテン。頭が非常に悪く数学は一桁台。働くと負けという気持ちがあり、登場人物の中でも最も働こうとしない。ゲストハウスのオーナーを目指してゲストハウスを作ろうとするが、自らの失態で焼失してしまう。その後は大工を目指している。好みの女性のストライクゾーンがかなり広く、友人たちでも「ない」と判断した女性を「あり」と判断する。

大沢 みきお(おおさわ みきお)

田中の一個上の学年でボクシング部。友人達の中では一番小柄だ。ボリュームある天然パーマが特徴だったが後に禿げる。下品キャラで大便にまつわる話が多い。一方、将棋が好きで大会に出場するほどの力の持ち主でもある。運転免許取得後、自分で屋台のラーメン屋(インスタント)を始める。しばらくラーメン屋を続けるが、ベンツが屋台に突っ込み商売道具がなくなる。沖縄で村田や田中と一緒にゲストハウスを立てるも焼失してしまった。

あらすじ

高校に入学した田中は、ボクシング部に入部し井上、岡本、村田、大沢と出会う。友人達といつも馬鹿な事をし、女性にアタックしてはフラれ、思うままに生活してきた。井上、村田、大沢は田中よりも学年なひとつ上のため、田中よりも早く卒業した。田中は学校に行く意味がわからなくなり、高校を中退する。高校中退後は、ニート生活を続けていた。母親が家賃を請求してきたため、仕事をせざるを得なくなるが長続きしない。その間にも、女性と付き合うためにアレコレ画策する田中であった。そんな時に、自宅の庭に貯めたバイト代で建てたプレハブに隕石が直撃する。自宅に戻れば家賃を母親に渡さなければならないので、田中はついに運送業者の契約社員として勤め始めるのだった。初めは逃げることばかり考えていたが、この頃には少し大人になって働くことが普通になる。田中は実家から運送業の仕事に通っていたが、事実上の解雇通知を受け、東京で地下トンネルを掘る仕事をはじめる。田中と同じく女性を追いかける同僚が周りにおり、同僚との付き合いが増えた。そんな生活を続けていると、ついに『マキ』という彼女を作る。これまでの出会った女性の中では最も、カップルらしい付き合いができていた。このままマキとの幸せな日々が続くと思われたが、マキはオーストラリアに行ってしまう。マキにサプライズを仕掛けるため、田中もオーストラリアへ行くが、マキと他の男性がキスをしている所に出くわしてしまう。マキの浮気が発覚し、田中は大きな失恋を経験した。働く同僚に慰められるも人生に迷ってしまい、当時同じく人生に迷っていた村田とビックスクータで日本中をめぐる旅に出かける。村田は沖縄にとどまることを決意したため置いていき、結局大きなものを得るわけでもなく、田中はまた契約社員として働くのだった。女性不審に陥る中、同僚に連れられた合コンで田中は、漫画家志望の『ななこ』と出会う。田中には珍しく、まったく女性に興味がなかったこのころに、ななこは田中に対して猛アタックをしかける。ななこの思いが通じてついに田中の心が動き、ななこと付き合うようになった。付き合ってからも相変わらずの「田中っぷり」で、ななことセ○クスすることばかり考えるため、ケンカもした。しかし、ななこの両親にも認められていることもあり、ついに田中はななことの結婚を決意する。そして、現在ななことの結婚生活が続いているのである。

見どころ

田中の人間臭さが一番の見どころ。「働きたくない」「女性と付き合いたい」といった、青年期の男の子であれば誰もが持つ欲望を、欲望通りに実践するのが田中である。欲望のためであれば、姑息な手段を使い、友人と共謀し、そして失敗する。しかし、それだけではただのギャグ漫画なのだが、高校、中退、上京とシリーズが進むにつれ、現実問題と向き合いながら成長する田中の姿が心地良い。基本的に辛いことから逃げるタイプであるが、どこか憎めないところがあり、時に常識を超えた哲学めいた発想をすることもある。シリーズでは、田中の周りに似たような友人や同僚が集まる。キャラクター一人ひとりに人生があり、キャラクターなりのストーリーが展開される。田中の周りにいる女性もキャラクターが濃く、田中が絶対に反抗できない母ちゃんや、すぐに男性とセ○クスしちゃう美人、浮気をするマキ、スイッチが入ると怖いななこ、と同じような女性が登場することはない。その女性一人ひとりも人間臭く、田中との関係が展開されていく。ただの「ダメ人間」ではなく、きちんと現実と向き合きあい、悩む田中の人間臭さが、ギャグだけでない面白さを備えている。

感想

ギャグ漫画としての面白さ、主人公の田中が欲望のままに行動する痛快さ、を兼ね備えた作品。田中の人生を、一般的な視点から見ると決して順調な人生ではないが、欲望に忠実な生き方が読み手の心をくすぐる。基本的に「どうせこいつは」という目線で見てしまうのだが、急に損得勘定抜きの行動や言動をしたときに「やるじゃん」となってしまう。そんな、良い意味での裏切りがそのままアフロ田中シリーズの面白さにつながり、「結局田中はいいやつだ」と読み手の中で納得感が出る。モテなかった田中が、美人な彼女や妻を手に入れたわけではない。かといって不幸せなわけではない。この作品を読み進めるほど、「結局どんな人生を歩んでいても、幸せはその人が目の前の出来事をどう捉えるか次第なのではないか」という結論に達する。田中という破天荒な人間が、現実に向き合いながらどんな人生を送るのか、その様子を見続けていたくなる作品だ。